苔楽地蔵が教えてくれたこと③

〜はじまりの一歩と、初めて知った喜び〜 

苔テラリウムを初めて作ったのは、娘と訪れたアクアリウムショップで目にしたあの小さな世界に心を奪われたのがきっかけだった。

あの景色を、自分の手で再現してみたい。

ただその思いだけで、私は見よう見まねで苔テラリウムを作り始めた。

だが、いざ始めてみると分からないことだらけだった。

そもそも「苔って、どこで手に入れるの?」という初歩的なところからつまずいた。

ネットで調べても、当時は今ほど情報が出てこない。今のように通販で手軽に苔が買える時代ではなく、苔専門のショップもまだ身近にはなかった。

苔を探して山へ

環境保護の観点から言えば、本来やってはいけないことだ。

しかし当時の私は、苔の世界のルールも知らず、ただ「知りたい」「やってみたい」という好奇心のままに、近くの山へと足を運ぶようになった。

登山道の脇、倒木の上、湿った石垣——。

さまざまな場所で苔を見つけ、少しずつ持ち帰っては、自分なりの苔テラリウムに使っていた。

その頃、私は藤井久子さんが書いた『苔図鑑』を片手に苔散策をしていた。

図鑑を見て、「これはホソバオキナゴケかな?」「これはヒノキゴケ?」などと想像しながら、いろんな苔を探し歩いた。

山の中で、コウヤノマンネングサを見つけたときのあの興奮は、今でもはっきり覚えている。

いつしか、以前ソロキャンプに費やしていた時間は、すべて「苔散策」に変わっていた。

苔散策と映像制作

私はもともと、キャンプをしている風景を映画のように美しくまとめた「シネマティック動画」が好きだった。YouTubeでそういった映像を見ては、「いつか自分も、あんな映像を撮ってみたい」と思っていた。

苔を探して山を歩いていると、ふと「この景色も記録に残したい」と思うようになった。自然の中を歩き、苔を見つけ、その美しさを映像として切り取っていく——。それは、まるで映画を撮るような感覚だった。

私は小さなカメラを片手に、苔散策をしながら撮影を始めた。

撮った映像を編集して、YouTubeにアップする。これが思いのほか楽しくて、夢中になった。

自然の美しさを映像で伝えることで、誰かが「苔っていいな」と思ってくれたら、それだけで嬉しかった。

今度は私が誰かに何かを届ける側になりたいと思い始めたのかもしれない。

苔楽フィルムの誕生

作った苔テラリウムは、毎回家族に見せた。

「どう?これ、きれいだと思う?」

妻や子供たちは、「すごい」「きれいだね」と声をかけてくれた。

その言葉が、私にとって何よりの喜びだった。

ただ作るだけではもったいない。

この楽しさや達成感を、誰かと共有できたらもっと面白いはず。そう思い、私は苔テラリウムの作り方をYouTubeに投稿することにした。

これが「苔楽フィルム」のはじまりだった。

制作に夢中になり、動画をアップするたびにチャンネル登録者が増えていく。その数字を見るのが楽しくて、夜な夜な編集に没頭した。撮影技術や編集ソフトの使い方を独学で学び、映像の質を少しずつ高めていった。

やがてチャンネルは収益化され、小さな達成感を得ることができた。

趣味が形になっていくことの面白さを、改めて感じた瞬間だった。

苔の置き場所に困る

順調に苔テラリウムを作り、動画にアップし続けていた私だったが、ある問題に直面する。

「作った苔テラリウムを置く場所が、もうない…」

家中が苔テラリウムで埋まり始め、保管にも限界が見えてきた。捨てるわけにはいかないし、せっかく作ったものだから誰かに使ってほしい。

「誰かに譲れたらいいな」

そんな風に考え始めたころ、思いがけないチャンスが訪れる。

はじめての譲渡、はじめての販売

ある日、母がふとこんなことを言った。

「いつも行ってる散髪屋の店主さんが、苔テラリウムに興味あるみたいよ」

その散髪屋は、地元にある昔ながらの小さなお店だった。

私は「試しに持って行ってみようか」と思い、苔テラリウムを一つ持参した。

すると、店主は本当に喜んでくれて、「こんなに素敵なものを、ありがとう」と感激してくれた。

さらに、「せっかくだからお代を払わせて」と、いくらかの値段をつけてくれた。

私は驚きと共に、「自分が作ったもので、誰かに喜んでもらえるって、こんなに嬉しいものなんだ」と実感した。

この体験が、私の中で何かを大きく変えた。

「もっと多くの人に、苔テラリウムを届けたい」

「作ったものを、誰かのもとへ」

その思いから、地元のマルシェに出店するようになり、少しずつ販売を始めた。

売れるかどうかはわからなかったが、人と直接触れ合いながら苔の魅力を伝える時間は、動画制作とはまた違った喜びがあった。

苔に没頭する日々の始まり

こうして、私は本格的に苔テラリウムに没頭していく。

作って、撮って、売って、また作って——。

その繰り返しが、私の日常になった。

個人対個人の販売からスタートし、マルシェのような不特定多数のお客様を相手にするようになる中で、そこで得られる会話や交流の楽しさにもどんどんと飲み込まれていくようになった。

その頃から苔テラリウムの持つポテンシャルの高さを感じ出したのだろう。

やがて収益も少しずつあげれるようになり、個人の趣味だったものが苔楽企画として開業し、活動を本格化していくようになるのだ。

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